微分方程式はいろいろな物理現象を表すときに使われます。1例を示しましょう。下の図は、仰角 $\theta (0 \lt \theta \lt \dfrac{\pi}{2})$ 、初速度 $\mathit{v}_{0} = \begin{bmatrix} v_{x}, v_{y} \end{bmatrix}$ で斜め上に射出された質点が描く軌跡です。 放物線 この質点の運動方程式をx軸方向とy軸方向に分けて表すと以下のようになります。  x軸方向:   $m f_{x} = ma_{x} = \dfrac{d^2 x}{dt^2} = 0 $  y軸方向:   
$m f_{y} = ma_{y} = \dfrac{d^2 y}{dt^2} = -mg  (g:重力加速度)$
x軸方向は $\dfrac{d^2 x}{dt^2} = 0$ 、y軸方向は $\dfrac{d^2 y}{dt^2} = -mg$ という風に質点の運動方程式が微分方程式の形で得られます。 いろいろな物理現象が微分方程式で表されると言いましたが、有名なものとしては、以下のような微分方程式が挙げられます。
  • マクスウェル方程式    
    $div\vec{ D } = \rho, div\vec{ B } = 0, rot\vec{ E } = -\dfrac{\partial f}{\partial t}, rot\vec{ H } = j + \dfrac{\partial \vec{ D }}{\partial{ t }}$
  • 熱伝導方程式       $\dfrac{\partial{u(x,t)}}{\partial{t}} = a^2 \dfrac{\partial^2 u(x,t)}{\partial x^2}$
  • 波動方程式        $\dfrac{\partial u(x,t)}{\partial t^2} = a^2 \dfrac{\partial^2 u(x,t)}{\partial x^2}$
  • ラプラス方程式      $\dfrac{\partial^2 u(x,y)}{\partial x^2} + \dfrac{\partial^2 u(x,y)}{\partial y^2} = 0$
上の例は、微分方程式の初学者がすぐに理解するのは困難ですが、まずは基礎からしっかり学んでいきましょう。当然ですが、微分方程式を学ぶ上で微積分は重要な土台です。まだ微分積分をきちんと理解できないない方は、以下のリンクからどうぞ。 ・微分  ・積分 
 初学者にとって、微分方程式は一見複雑に写るものです。しかし、いくつかの解法のパターンを身につけてしまえば、それほど難しいものではありません。 高校数学までなら、「方程式を解く」といえば、なんらかの値を求めることでした。これまでと違い、「微分方程式を解く」というのは 与えられた微分方程式を満たす関数を求める ことになります。微分方程式の解は $y = f(x)$ のような形になります。 最初は 直接積分形 の微分方程式です。これは微分方程式の中で一番簡単な形をしています。下の式が直接積分形です。 \[\dfrac{dy}{dx} = f(x)\] この微分方程式を満たす一般解 $y$ を求めます。式を見てすでに答えに気づいた人も多いでしょう。この式の両辺を積分すれば、 $y = F(x)$ の形になりますね。直接積分形は両辺を積分すれば解けてしまいます。一般解の形は次のようになります。

$y = \displaystyle \int f(x) dx = F(x) + C(任意定数)$

さらに、このとき初期条件$y(a) = b$ が与えられていると、$b = F(a) + C$ から任意定数$C = b - F(a)$ を決定できます。この任意定数まで特定した解を特殊解といいます。 初期条件や境界条件の意味が分からないという声はよく聞きます。これらは物理的には重要な意味を持つのですが、数学では問題を解くための条件として与えられるものです。
では、直接積分形の微分方程式を1つ解いてみましょう。

問1 $\dfrac{dy}{dx} = 2(x + 1)$ の一般解を求め、初期条件 $y(0) = 1$ を満たす特殊解を求めよ。

与式の両辺を $x$ で積分する。
$y = \displaystyle \int 2(x + 1) dx = x^2 + 2x + C  (C:任意定数)$
初期条件 $y(0) = 1$ より $y(0) = C = 1$ となるので、求める特殊解は $y = x^2 + 2x + 1$ 常微分方程式について、さらに詳しく学びたい方には、以下の本がおすすめです(楽天サイトにとびます)。
    
 変数分離形 は下のような式で表わされます。 \[\dfrac{dy}{dx} = P(x)Q(y)\] これは導関数 $\dfrac{dy}{dx}$ が、$x$ の関数$P(x)$と $y$ の関数$Q(y)$の積になっています。変数分離形は、上記の方程式を次のように変形して解くのです。

まず $\dfrac{dy}{dx} = P(x)Q(y)$ の両辺を $Q(y)$ で割り、また、両辺を形式的に $dx$ で割ります。 $\dfrac{1}{Q(y)} dy = P(x)dx$ 左辺は $y$ の式、右辺は $x$ の式になりました。次に、両辺をそれぞれ積分します。

$\displaystyle \int\dfrac{1}{Q(y)}dy = \displaystyle \int P(x)dx + C(任意定数)$

変数を左辺と右辺に分離して計算するので、「変数分離形」というのですね。直接積分形と変数分離形は微分方程式の解き方の基本ですので、しっかり覚えましょう。
簡単な問題を解いてみましょう。

次の微分方程式の一般解を求めよ。 $\dfrac{dy}{dx} = \tan^2 (x+y) $

どのように変数を分離するか悩んだのではないでしょうか。では、この式を変数分離してみましょう。 まず、$u = x+y$ とおきます。 $y = u-x$  両辺を $x$ で微分します。 $\dfrac{dy}{dx} = \dfrac{du}{dx}-1$ この式と $u = x + y$ を与式へ代入します。 $\dfrac{du}{dx} - 1 = \tan^2 u$ となり、これは $u$ を未知関数とした変数分離形となります。 $\dfrac{1}{1+\tan^2 u} \dfrac{du}{dx} = 1$ 両辺を $x$ で積分します。 $\displaystyle \int \dfrac{1}{1+\tan^2 u} \dfrac{du}{dx} dx = \int dx$ $\displaystyle \int \dfrac{1}{1+\tan^2 u}du = \int dx$ 三角関数の公式 $\cos^2 θ = \dfrac{1}{1+\tan^2 θ}$ より $\displaystyle \int \cos^2 u du = x+C'  (C':任意定数)$ この式の積分のやり方が分からない方は、解答の最後にある (参考*) を確認してください。 $\dfrac{1}{2}u+\dfrac{1}{4}\sin 2u = x + C' $ 両辺に4をかけて変形します。 $\sin2(x+y) = 2(x-y) + 4C'$ 任意定数 $4C'$ は $C$ とおいて、一般解は $\sin 2(x+y) = 2(x-y) + C$ となります。 (参考*) $\int \cos^2 x dx$の解き方 半角の公式 $\cos^2 \dfrac{θ}{2} = \dfrac{1 + \cosθ}{2}$ を使います。$\dfrac{θ}{2} = x$ とおくと、$θ = 2x$ となるので
$\displaystyle \int \cos^2 x dx = \displaystyle \int \dfrac{1 + \cos 2x}{2} dx = \int \dfrac{1}{2}dx + \dfrac{1}{2} \int \cos 2x dx = \dfrac{1}{2}x + \dfrac{1}{4} \sin 2x + C$

もう一問、変数分離形の問題を解いてみましょう。

次の微分方程式の一般解を求めよ。 $xy'^2-2yy'-x = 0  (x \neq 0)$

どうやって変数を分離するか悩んだのではないでしょうか。 式の両辺を $x$ で割ると $y'^2-2\dfrac{y}{x}y'-1 = 0$ 式をよく見ると $y'$ の二次方程式になっていることが分かります。なので、二次方程式の解の公式 ( 二次方程式 $ax^2 + bx + c =0 (a≠0)$ の解は $x = \dfrac{-b±\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$ ) を利用して
$\dfrac{dy}{dx} = \dfrac{y}{x}±\sqrt{(\dfrac{dy}{dx})^2+1} \quad  (y' = \dfrac{dy}{dx})  ①$
ここで、さらに注目してほしいのは、この式が 同次形 になっているということです。同次形というのは、 $\dfrac{dy}{dx}$ が $\dfrac{y}{x}$ だけの関数になっている微分方程式のことです。同次形の式を簡単に書くと下のようになります。 \[\dfrac{dy}{dx} = f(\dfrac{y}{x})\] この同次形の微分方程式を解くコツは、$y = xu$ とおいて計算を行うことです。 $u = \dfrac{y}{x} ②$ また、この式の両辺をxで微分して $\dfrac{dy}{dx} = u +x \dfrac{du}{dx} ③$ ②と③の式を①に代入すると $u + x \dfrac{du}{dx} = u ± \sqrt{1 + u^2}$ $x \dfrac{du}{dx} = ± \sqrt{1 + u^2}$ $\dfrac{1}{\sqrt{1+u^2}} du = ± \dfrac{1}{x} dx$ やっと変数分離形になりましたね。この式の両辺を積分して
$\displaystyle \int \dfrac{1}{\sqrt{1+u^2}}du = ± \displaystyle \int \dfrac{1}{x}dx$
積分公式
$\displaystyle \int \dfrac{1}{\sqrt{x^2 + α}} dx = ln|x + \sqrt{x^2 + α}|  (α \neq 0) (x^2 + α >0)$
を利用して $\ln|u+\sqrt{1+u^2}| = ± \ln |x| +C$ ここで $\ln X = Y$ のとき、$e^Y = X$ であることを利用して両辺から $\ln$ を消して
$u + \sqrt{1 + u^2} = ±e^{±\ln |x| + C} = ±e^C e^{±\ln |x|} = Cx^{±1}$  ($±e^C$ を $C$ とおいた)
$u = \dfrac{y}{x}$ に戻すと $\dfrac{y}{x}+\sqrt{1+(\dfrac{y}{x})^2} = Cx^{±1}$ 両辺に $x$ をかけて $y + \sqrt{x^2 +y^2} =Cx^{1±1}$ ここで、右辺が $Cx^2$ の場合と $C$ の場合で場合分けします。 $y+\sqrt{x^2 +y^2} =Cx^2$ の場合、両辺に $y-\sqrt{x^2 +y^2}$ をかけて $\sqrt{x^2 +y^2} = y+\dfrac{1}{C} \cdots ④$ $y+\sqrt{x^2 +y^2} =C$ の場合 $\sqrt{x^2 +y^2} = -(y-C) \cdots ⑤$ ④と⑤の両辺を2乗して任意定数Cの項を1つにまとめると、一般解は $x^2+ y^2 =(y+C)^2$ となります。
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